回復を続けるロシア経済と今後の展望 ~ルーブル高は続いて行くのか?~

なぜロシア経済の見通しにはギャップが生まれるのか?

2017年8月11日、4~6月期のロシアの国内総生産(GDP)成長率が発表されました。

年率2.5%成長と、1~3月期の年率0.5%から大幅な上昇となりました。

その結果、すぐにロシア通貨ルーブルの対ドルレートも急速に上昇し始めました。

6月以降、ルーブル安が続いていたのですが、その流れが逆転することになったのです。

今回のGDP成長率発表の前には、多くの日本人はロシア経済がそれほどいい状況にあるとは思っていなかったはずです。日本のメディアは、ロシア経済の現状についてはあまりいいことは伝えませんし、「ロシアの暗い未来」ばかりを強調しています。

以前、ロシア経済について、私は「ロシア経済の現状とルーブル為替価格の今後の見通しについて」(『FX初心者のための役に立つブログ』)という論稿の中で考察したことがあります。その中で、2017年に入ってロシア経済が回復軌道に乗っていることは、すでに指摘したところです。

今回は、その後の最新のデータも含めながら、このロシア経済の現状と将来の見通しについてみていくことにしましょう。

予想を超えるロシアの経済成長

ロシア経済に関しては、日本ではあまりいいことが報道されないため、今回の2017年4~6月期の国内総生産(GDP)成長率が年率2.5%になったということが、何か意外に感じられるかもしれません。

ロシアのGDP成長率の推移をみると、以下の図の通りになります。

2016年7~9月期まではマイナス成長が続いて、同年10~12月期からプラス成長へと変わっています。しかし、2017年1~3月期まではわずかなプラス成長にすぎません。

ところが、2017年4~6月期が2.5%と、突然の2%台の成長となったのです。非常に大きな上昇ですので、市場にも驚きを持って迎えられ、そのことがルーブル為替の急上昇にも繋がりました。

減少を続ける実質可処分所得と実質賃金

しかし、多くのロシア国民の生活実感からすると、それほど景気がいいとは感じていないのが実情です。

ロシアの個人可処分所得(実質)をみると、以下の図の通りです。

2017年1月に、個人可処分所得が年率8.2%一気に上昇した以外は、常に可処分所得は減り続けています。

ただ、よく見ると5月は-0.4%と、4月の-7.5%に比べると大きな改善がみられます。

このように、税金や社会保険料を差し引いた実質可処分所得はマイナスとなっていますが、では、実質賃金という点からみるとどうでしょうか。

ロシアのインフレ率と賃金上昇率については、以下の図の通りです。賃金上昇率に関しては、今後の予測も示してみました。

2017年6月頃まで、賃金上昇率はインフレ上昇率に明らかに追いついていません。つまり、実質賃金は継続的に減少してきているのです。

しかし、賃金上昇率については、8月17日発表された年率4.6%を境に、今後はインフレ率より高い比率で上昇していくと予想されています。従って、今後は実質賃金が増加していく可能性が高くなります。

ようやく始まった消費の拡大

このように個人の所得は実質的に目減りしているロシア経済ですが、では消費はどういう状況にあるのでしょうか。小売販売の増減率をみると、以下の通りです。

図をみると、2017年4月以降、小売販売額が増大するようになっているのがわかります。個人の可処分所得は減り続けているのですが、ここにきてやっと個人消費が増えるようになっているのです。

おそらく、少しずつ実質所得の減少率が低下してきているので、消費の拡大が起こるようになったのでしょう。

やっと、個人消費がロシア経済の発展に貢献できるようになりつつあります。しかし、それはまだわずかな貢献にすぎません。

GDP成長に大きく貢献する工業生産

2017年5月のGDP成長率は3.1%と、かなり高い成長を記録しました。工業生産に関してみると成長率は5.6%と、非常に高い成長率です(下図参照)。

工業生産は4月2.3%、5月5.6%、6月3.5%と拡大しており、今回の4~6月のGDP2.5%成長に大きく貢献することになりました。

いずれにせよ、現在、ロシア経済は回復過程に入っており、低迷していた消費も少しずつ拡大する方向に進んでいます。2017年のGDP成長率は、1%台後半からそれ以上になる可能性が高くなっているのです。

ロシア国民が問題にするのは低賃金や国の経済状況

しかし、ロシア国民の消費が少しずつ回復しているとはいえ、多くの国民の暮らしは決して楽なものではありません。そのため、日本のメディアも「ロシアの暗い未来」と報道することになるのです。

現在、ロシア国民は日々の生活の中で、何に不安や問題を感じながら暮らしているのでしょうか。世論調査をもとに、それについてみてみましょう。

2017年5月、全ロシア世論研究センター(All-Russia Public Opinion Study Center)が全国の1600人の国民を対象に実施した世論調査によると、以下のような結果になっています(TASS, June 15, 2017)。

ロシア国民が現在、最も問題に感じているのは、低賃金です。全体の23%の人が、第1位に挙げました。1月の調査では18%、そして2016年5月には15%でしたから、低賃金に問題を感じる人が次第に増えてきているのがわかります。

第2位は、21%の人が挙げた国の経済状況です。1月の調査では16%、そして4月の調査では24%の国民が、それを最も問題だとしています。

第3位は、20%の人が挙げた健康・医療です。2016年5月に12%となって以来、同年末にはトップ3入りをして、今や国民にとっての大きな問題になっています。

第4位は、16%の人が挙げた失業で、第5位は、15%の人が挙げた社会政策です。社会政策に関しては、2017年2~4月には18~19%の人が問題だと答えており、国民にとって大きな問題のひとつになっています。

ほかには、教育が16%、インフレが11%、腐敗が11%、低年金が10%などとなっています。

このように、ロシア国民は低賃金に最も不満を感じ、国の経済状況や医療・健康、失業のことなどへの不安も感じながら生活しています。この世論調査によると、腐敗に対する不満が次第に高まってきているということです。

また、Levadaセンターが実施した最新の世論調査(2017年8月18~22日、48の地域の1600人を対象に実施)では、現在ロシア国民が最も問題だと感じているのは、物価上昇と貧困だということです(The Moscow Times, August 31, 2017)。

それによると、回答者のおよそ3分の2の人が、物価上昇を最も不満なことに挙げました。そして、貧困を挙げた人が45%、失業と腐敗を挙げた人が33%と続きます。市民の権利制限を問題だとした人は、たったの4%にすぎませんでした。

物価上昇については、それが実質賃金の低下や貧困にも繋がることになるので、ロシア国民の多くが不満に感じているようです。そして、腐敗を挙げた人が33%もいるというのは、ロシアの政治と社会の現状をよく教えてくれるものだと言えるでしょう。

今後もロシア経済は成長を続ける

2017年4~6月期は年率2.5%成長と比較的高い成長でしたが、7月のGDP成長率は年率1.5%へと減速することになりました。5月には年率5.6%の成長率を達成した工業生産も、7月には1.1%へと大きく減速してしまいました(上図参照)。

また、製造業生産をみると、7月が-0.8%のマイナス成長となって、経済全体の足を引っ張っています(下図参照)。

ただ、この7月の製造業の生産低下は一時的なもので、8月には回復するとみられています。そして、7月には建設が好調だったことで、経済全体では年率1.5%を維持できたということです。

それでは、ここでロシアの景気先行指数をみてみましょう。景気に先行して動くいくつかの経済指標から成る指数で、景気の先行きを表すものです。

図からわかる通り、7月には指数は少し低下しましたが、1.5のプラスになっています。そして、その後の予測をみると、今後は指数が上昇し続けていくとみられています。つまり、ロシアの景気は先行きが明るいと予測されているのです。

ここで、景気に敏感ないくつかの企業の株価の動きもみておきましょう。

消費の低迷で、これまで苦戦が続いていた小売業のディクシーグループ(DIXY)ですが、株価が7月に入って上昇に転じています。7月1日の株価は約221ルーブルですが、9月1日には株価が約307ルーブルへと急上昇しています。

また、大手食品ディスカウント小売りチェーンのマグニト(MGNT)の株価は、2016年12月から2017年3月までは下落を続けていましたが、4月から9月にかけて株価は約2割上昇しています。

こうした小売業者の株価の上昇は、ロシア国内で今後も消費が次第に拡大していくだろうと、多くの人がみているということの現れでしょう。

そして、景気状況の影響を受けやすい電力会社のロシア卸売電力(エネルロシア、ENRU)の株価をみると、2017年4月以降、大きく上昇し始めています。4月1日の株価0.997ルーブルが、9月1日には1.243ルーブルへと上昇しています。これは、景気拡大に伴って、電力需要が増大していることを示すものと言えるでしょう。

一方、資源関連企業のガスプロムや大手不動産開発管理会社ハルス・デベロップメント(HALS)など、株価が低下し続けている企業もあります。しかし、それは一部の業界と企業に限られたものと言えます。

モスクワ証券取引所の株価指数MICEXの動きは、以下の通りです。

2017年6月を境にして、MICEX指数が上昇を始めていることがわかります。企業業績の改善に伴って、上場企業全体の株価は上昇しています。指数自体は、まだ年初の水準にまでは回復していませんが、今後も上昇していき、それに近づいていくことでしょう。

FTが報じた「繁栄するロシア農業」

『日本経済新聞 電子版』2017年9月5日付の記事で、ロシア経済について面白いことが報道されていましたので、最後にそれを紹介しておきましょう。

同新聞では、これまでロシア経済については「暗い将来」ばかりを強調する記事が多かったのですが、フィナンシャルタイムズの記事とはいえ、今回はロシア経済の明るい将来に関して報道しています。

記事によると、欧米諸国の経済制裁の「おかげ」で、現在ロシアのサケの養殖業者、農業、食品産業などは非常な活況を呈するようになっているということです。

クレミア半島併合後の経済制裁によって、ロシアへの肉と魚の輸入の約6割、乳製品、野菜、果物の輸入の約半分が突然禁止されることになりました。しかし、そのことで、ロシアの国内企業には大きなチャンスが巡ってきたというのです。

ロシア最大のサケの養殖業者ロシアン・アクアカルチャーは、2017年に入って生産量を6倍以上(664%)も増大させ、現在輸入業者が支配している国内市場で25%前後のシェアを獲得する見通しだということです。

また、ロシアの農業最大手であるルスアグロは、2016年の売上高が前年比で16%増加し、穀物販売は前年比49%も増加したということです。

2016年には、ロシアの食品・農業会社は50億ドル(約5500億円)の設備投資をして、国内の果物、野菜、チーズ、牛乳、肉などの分野で、外国企業から次第にシェアを奪っているということです。

その結果、株価も上昇を続け、ルスアグロ、肥料大手のフォスアグロ、そして食肉加工大手のチェルキゾヴォの株価は2014年以降、2倍以上に上昇し、ロシアン・アクアカルチャーの株価に至っては4倍に高騰しているということです。

米国の著名投資家ジム・ロジャーズ氏は「欧米諸国は自ら墓穴を掘っている。制裁は本来、ロシアに害を及ぼすはずだったが、ロシアの農業は恩恵を受けた」「お金も専門知識もロシアに流れ込んでいる」「今から5年後には、…効率が高く、潤沢な資金を持った巨大企業がここに生まれる。その前に、今、制裁を解除するよう、誰かが米国人に警告すべきだ」と語っています。

このように、欧米諸国の経済制裁によって、ロシアの農業や食品産業では輸入代替が進むことになり、ロシア企業の力が高まりつつあるのです。

現在、ロシア国民の暮らしは確かに苦しいのですが、ロシア経済の先行きは決して暗いものではありません。実質賃金の上昇も近く起こりそうですし、少しずつロシア国民の生活も改善していくのではないでしょうか。急激に国民生活が改善するということはないにしても、少しずつ良くなっていくことでしょう。

まとめ

2017年4~6月期、年率2.5%のGDP成長を記録し、通貨ルーブルがそれまでの下落から上昇へと転換し始めました。2016年末から成長を続けるロシア経済ですが、ロシア国民の多くは実質可処分所得の減少によって厳しい生活を送っているのも現実です。

そのため、世論調査では、低賃金、インフレ、貧困などがいつも心配事の上位に挙げられます。国民生活だけをみれば、ロシア経済の現状と未来はあまり明るいようにはみえません。

しかし、ロシア経済は明らかに回復を続けています。2%を超えるGDP成長は難しいかもしれませんが、2017年と2018年は1%台後半の成長が予測されています。

その一方で、ロシア経済のGDPの7割が国営部門によるもので、競争が阻害され非効率であり、汚職とかの問題もあるため、ロシア経済の潜在成長率はせいぜい1%程度という厳しい見方もあります。

ただ、2017年のGDP成長率については、国際通貨基金(IMF)でさえ、年率1.4%程度と予測していますし、2018年はそれよりさらに成長率が高まるとしています。

確かにロシア経済には構造的な問題があるとはいえ、1%程度のGDP成長率に留まらず、2%近くの成長までは可能な力を持っているのではないでしょうか。潜在成長率が1%程度と決めつけてしまうのも危険ではないでしょうか。

とはいえ、欧米諸国の経済制裁によって、ロシアのGDP成長率は0.5~1%近く押し下げられているとも言われています。ですから、もし経済制裁がなければもう少し成長率が高くなっていた可能性はあるでしょう。

現在、農業、漁業、食品産業など一部の部門では、輸入代替効果によって、ロシア企業が力をつけ、ロシア経済の成長に今後、一定程度貢献していけるような企業ができつつあります。

経済制裁が、ロシア経済を強くすることだってありえるのです。もちろん専門知識や技術の導入が制限された部門(電子機器や自動車など)では、かなり難しいことになるでしょう。

現在、ロシアの政策金利は9%で、2017年中にさらに引き下げがあると予測されています。8.5%か8%にまで引き下げられるのではないかとみられています。現在、ルーブル為替がルーブル高・ドル安の傾向にありますので、政策金利も引き下げやすい環境にはあるでしょう。

米国では、FRBによる利上げに不透明さが出てきましたし、トランプ政権にも不安定さがみられます。そして、北朝鮮問題も起こってきていますので、今後はドル高に向かう圧力はそれほど強まりそうはないようです。

ルーブルは9月4日現在、1ドル=56.88ルーブルですが、今後もルーブル高・ドル安の傾向が続く可能性が高いと思われます。ロシア中央銀行が政策金利を引き下げた際には、ルーブル安・ドル高に少し傾くことが予想されますが、傾向的には今後もルーブル高・ドル安が続く可能性が高いのではないでしょうか。

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